は じ め に
私は、三十年にわたって小論文の指導をしていますが、いまだに受験生の多くが勘違いしていることが2つあります。
一つは、小論文を説明文の一種だと思い込んでいるゝことです。言いかえれば、小論文と説明文の違いがわかっていないということです。
たとえば、「温暖化について述べよ」という問題だったとします。すると、温暖化とはどういうことなのか、それはどのような原因で起こったものなのか、その原囚を取り除くにはどのような方法が考えられるかといったことを書く受験生がいます。これは、説明文です。
論文は意見を表現するところから始めなければなりません。意見ということは、必ず反対意見があるということです。考えてみてください。全員同じ意見であれば、わざわざ意見表明をする必要はないでしょう。
たとえば、先の「温暖化」について全員が温暖化を止めなければならないということで一致しているのであれば、わざわざ「払は、温暖化を止めるのがよいと思います」という必要はないわけです。
この問題の論述が、説明久になってしまう人は、「温暖化を止めるのは当然」という思い込みで文章を書き始めるからなのです。
しかし、小論文の問題として出題される以上「……について述べよ」という表現であったとしても、その中に意見の対立が読み取れるような内容であることが必要なのです。
その意見の対立とは立場の対立ということができます。
たとえば、「温暖化」についていえば、先進国の立場からは「温暖化防止」という意見になりますし、発展途上国の立場からは「温暖化防止より経済発展」という意見になるのです。
そこで、自分の立見を主張し相手を説得するために理由が必要です。それも、理性に訴える論理的理由だけでなく、心情に訴える具体例も必要なのです。これらについては詳しく本論で説明します。
もう一つの勘違いは、小論文は採点者に対する意見表明だと思っていることです。
先ほど述べたとおり意見表明は反対意見の人に対してするものであり、反対意見の人を説得するためにかかげるものです。決して採点者に対してするものではありません。もしそうだとしたら、採点者の意見と異なる意見を述べた人は相当不利になるはずです。しかし、みなさんがどのような意見をもっていようと合否には関係ありません。
ということは、意見そのものが評価対象ではないということです。採点者である大学教授は、みなさんが反対意見の人をどのように論破するか、または、説得するかという過程を、発想力、着想力、連想カに加えて、問題提起力、分析力、判断力、推理力、論理的表現力といった多くの角度から客観的に評価するのです。
それは、目本の大学が公益法人なので、人学試験においても公平性が強く求められているからなのです。ですから、小論文の採点においても客観的採点基準が存在しているのです、ここが、就職試験の小論文と違うところです。就職試験の合否は、面接官の直感が一番大きなウェイトを占めていますので、小論文の採点に関しても組かい基準は決められていないようです。だからかえって、難しいのです。もし、小論文で一発逆転を狙うのであれば、拙者『川中メソッドで古く就職小論文』(土屋書店)も併せて読んでおくとよいでしょう。
このように小論文で評価されるポイントが多いにもかかわらず、これまでの小論文の本のはとんどは、書き方を説明したものになっています。これでは、小論文を書くために必要な基本的能力を鍛えることはできません。そこで、論理的思考力を鍛える小論文の本を執筆することにしたのです。
もちろん、これまでの小論文の本が扱ってきた、小論文の構成から書き方の細かい作法についても説明しています。ですから、はじめて小論文に挑戦する人も安心して読める内容になっています。
本書では、みなさんが小論文を古けるようになるだけでなく、将来、ビジネスや日常生活の上で問題にぶつかったときに、思考停止に陥ってしまわないようにするために必要な論理的思考力をも身につける方法をお教えします。
本書を読むことで、論理的思考力がしっかりと身につくだけでなく、友人とのコミュニケーションが深まるきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。
|